オッサンの幼き頃は本を読むのが好きだった。
こう書くと、さぞかしお利口な神童かと思われるかもしれませんが、さにあらず。
『ファーブル昆虫記』とか『エジソン』とかの偉人伝でも読みふけってれば末は博士か大臣かと将来性もあるが、なにせ読んでいたのが宇宙人とかネッシーとか雪男みたいな怪しいブツばかり。
おかげさまでアレから40年後の現在は、社会の底辺で細々と生きるトホホな人物に成長しました。
オッサンが読んでいたブツの中に『21世紀には人類は地球を廻るコロニーで生活している』みたいに描かれていて、幼きオッサンは「そっか〜!オラも中年くらいの頃は宇宙で暮らしているんだ。ジーク・ジオン!!」と夢見たものである。
んで21世紀の現在。
巨大コロニーなんて影も形もなくて、地球を廻っているのは怪しい軍事衛星とスペース・デブリ(宇宙ゴミ)ばかり。
もちろんモビルスーツのバトルなんて全く無くて、Pepper君一団が野球の応援する平和な世の中である。
まぁ、現実とはこんなもんだろうて…
とは言え、世の中はそこそこに進化していて、スマホは誰でも持ち歩き、自動運転な水素・電気自動車がウロチョロする、20年前には誰も想像もしなかったプチ進化はしている。
若き日のオッサンが夢見た21世紀のイメージには程遠いが、少しづつ世の中は変わっているのである。
そんな地味な進化は釣りの世界にも及んでいる。
リールは電動になり、あらゆる素材は目覚ましく進歩し、細く・軽く・剛性の高い新素材のオンパレードである。
もっとも、そんな素材を使ったアイテムは当然高額なので、オッサンには手も足も出ない。
そもそもソレが必要な釣りモノすらやってなくて、ハゼやテナガエビといった近所での小物釣りがせいぜいだ。
しかし、小物釣りを舐めてはいけない。
ド派手な釣りモノにはないミニマムな世界にこそ極小の宇宙が存在しているのだ。
博打もいろんなものをやり込めると、最終的にはサイコロに戻るという。
何の世界も同じである。
その道をやり込んでいくと最後には一番シンプルな所へ辿り着くのだ。
原点に戻るのである。
どんな世界にも”コク”という言葉があり、シンプルなところに真理と隣り合わせのコクが存在し、そのコクを楽しむようになる。
モノホンのプロはコクを知っているのだ。
オッサンもハゼ釣りにおいてそんなコクを感じ始めている今日この頃。
やればやるほど奥が深いと感じつつも、普通にハゼ釣ってりゃ〜いいもんをあらぬ方向の道草をムシャムシャと食い散らかしている。
まぁ、普通にやってても飽きてくるから、単に刺激を求めているだけなんだけど。
※これからはハゼ釣りのミャク釣りの話になります。ウキ釣りとは多少なりとも違うのでご了承下さい。
誰でもある程度は釣れる大衆釣りの代名詞のハゼ釣り。
しかし、上手い下手の差がハッキリと出てしまうのもハゼ釣り。
シンプルが故に腕の差が残酷なまでに露呈してしまうのである。
釣れる釣れないの理由をあげるとキリがないんだけど、ハゼのアタリに気づくかどうかはかなり大きなウェイトを占めると思う。
当たり前だけど、まずはアタリに気づかないと釣りが始まらない。
竿を上げたらハゼが付いてたみたいに勝手にハリ掛かりしている状況も無くはないが、それは事故みたいなもんで、アタリに気づいてからアワセを入れてハリに掛ける事がほとんど。
そのアタリが誰でも気づくようなハッキリしたものなら話は簡単なんだけど、問題はアタリと気づきにくい極小なもの、もしくはアタリと認識できない気配みたいなものが少なからず存在している事。
それを拾えるかどうかが釣果数の差となってきます。
しかしどうしたらそんな分かりにくいアタリがとれるのか?
この難解なテーマは小物釣りの宿命でもあり、オッサンのハゼ釣りにおける命題でもある。
仕掛けや竿の握り方、道糸のテンション強度etc、etc…
いろんな要因があると思いますが、今回は竿の素材にスポットを当ててみました。
今現在、のべ竿の素材の主流はカーボンとグラスファイバーの混合構成。
その構成割合により、軽くて強いとか柔軟性が高いとか竿の特徴が出てきます。
メーカーは釣り物や釣り場、釣り方などの特徴に合わせその割合にしのぎを削っています。
基本的にカーボン=軽くて強靭、グラス=柔軟性という特性。
竿の重量は何グラムとかハッキリと数字に出るから問題ないが、竿が硬いの柔らかいの感覚は人によって違うから玉虫色だ。
ちなみにオッサンはアタリ取り重視派なので柔らかい竿がお好み。
オッサンがハゼ釣りをしている時は、出来る限り極小のアタリを見逃さないようにしています。
竿先の僅かな変化を捉えての電撃フッキング!
スン…と僅かに下がるとか、ソレ以下のス〜…っとゆっくり沈むとか、逆にフワッっと上にあがるとかの穂先のホンの僅かな違和感の数々。
そして究極のアタリが、見た目どこにも出てこないし、手に全く振動も伝わってこない雰囲気というか気配。
僅かでも見えるアタリならまだ納得してくれるが、かなり手練のハゼ釣り師にも気配の話になった途端”なに言ってんだコイツ?”と胡散臭さ満載の侮蔑的スマイルで受け流されてしまう。
でも現実にあるんですよ!ソレは確実に!!
眉唾のアタリは難しいとして、その他の極小のアタリをどうしたらもっと分かりやすく捉えられるだろうか?いつも考えていた。
そこで今回のネタは竿の素材をあるものにチェンジしてみようという企画です。
その素材とはカーボンでもグラスでも最新高性能素材のチタンでもない。
それはクジラのヒゲです。
説明するまでもなく、文字通り海にいる哺乳類の鯨の髭。
ヒゲとは言うものの、男の口の周りに生える毛(たま〜にヒゲ女も見かけるけど)ではなく、鯨の口の中の上あご部にある細長い三角状の板状の器官。
コレが数百本ビッチリと並び、鯨のエサを濾し取るフィルターの役割をする。
日本では古くからその弾力性を活かして釣り竿の穂先に使っていた。
その他に傘や扇子、からくり人形のゼンマイとかヴァイオリンの弓に使われていたらしい。
現在は金属やプラスチックなどの素材が普及しているのでクジラのヒゲを使う事は少ないらしいが、それ以前はその優れた弾力性能が重宝され、鯨乱獲の原因ともなった。
年配の方はクジラのヒゲを竿先に使っていたのをご存じの方も多く、「昔はよくナイフで削って、自分の好みの調子にしたもんじゃのぉぉぉぉ〜」と述懐したりする。
オッサンにはヒゲ削りの経験は無かったが、そんな三丁目の夕日的な謂れを年配の釣り師から聞かされたことがあった。
別にノスタルジーに駆られたわけじゃないけど、自然素材ならアタリが分かりやすいかもしんまい。
以前、和竿を使っていたハゼ釣り師が「小さなアタリもよく伝わってくる」と言ってて、その竿先にクジラのヒゲを使っていたと記憶している。
ならば!と白羽の矢が立った。
しかしクジラのヒゲなんて今どき手に入るの?売ってるの?
そもそもかなりの高級品なんじゃないの?
試しにネットで調べてみると案外簡単に見つかった。
お値段は思ったよりもリーズナブルで、オッサンのハゼ竿一竿分って感じ。
穂先パーツだけで竿一振りというのも納得いかないが、ハゼ様のために大盤振る舞いの覚悟。
ハゼ釣りに使えそうなのは全長27cmでワカサギ竿用のやつ。
残念ながらハゼ釣り用が無かったけど、まぁハゼもワカサギも小物には違いないだろとドンブリ加減にて購入ボタンをポチッ!っとな。
調子の微調整は自分でやるみたいだから、失敗した時の予備に二本セットを選んだ。
楽しみだな〜!
数日後、ブツが届いた。
クジラのヒゲってどんな風に送ってくるんだろう?と期待してたんだけど、まぁ予想通り。
紙管に入ってきたぞ
中には新聞紙で包まれた怪しい物体。
新聞紙というのが味だね
いよいよヒゲが出てきた。
ケースに入ったヒゲと納品書
結構キチンとしてるじゃん!
ケースからヒゲを取り出してみる。
生まれて初めて触るクジラのヒゲ。
プラスチックと木材の中間みたいな触り心地で、匂いはほとんど無いけどそこはかとなく海産物みたいな香りがする。
コレがクジラのヒゲか!
竿の穂先として90%完成された状態で送ってくれるけど、自然物だから多少いびつで均質ではないし、かなり急激にテーパーがかけてある。
でも自然のものなんだから、これはしょうがないですね〜
驚いたのは穂先はもっと太いのかと思ってたら、0.5mmくらいでかなり細い仕上がりだった。
いくら小魚相手とはいえ、こんな細くても粘れるんだ!
カーボンやグラスがない時代にこの性能なら引っ張りだこだろう。
このヒゲだけのために鯨を乱獲する気持ちも分からないではないが、奪った命は出来る限り無駄なく有り難く使わせてもらうべきだろう。
元側は四角い
穂先部は結構細くまで削ってある
いよいよ実釣に使えるように調子を整えるための削る作業を開始。
作戦としては穂先から10cmくらいは柔らかくし、それ以降はしっかりアワセが決まるように硬めにする予定。
まずは何もしてない状況を把握します。
いつも使う1号相当のオモリをぶら下げてみる
硬い小魚用竿みたいなフィーリングでこのままでも使えそうな気もするけど、もう少しだけ穂先を柔らかくしたいところ。
後は元の部分が四角いので丸くとまではいかないまでも、角を取るくらいはやっておきたい。
注意したいのは削り過ぎると元に戻せないので気を付けなくちゃだわ。
しゃれたナイフなんぞは持ってないので普通のカッターで作業する。
ヒゲに対して垂直に刃をあてがい、ヒゲを擦るように削ります。
一ヶ所につき数回削ったらヒゲを回転させ、満遍なくキレイに。
グサッ!とヒゲに刃が喰い込まないように
削り心地はアクリルを削ってるような感触で、削りカスもそんな感じ。
キーキー小気味よく削れて気持ちいい
穂先10cm位を重点的に削り、元方向は角を取る程度。
時々オモリを下げて調子を確認する。
とにかく削り過ぎには気を付けて慎重に作業するが、意外にも20分くらいで作業完了してしまい拍子抜けする。
まぁ、ほとんど完成品で送られてきて、最後にちょっとだけ調子を整えるくらいだからね〜
まだちょっとだけ硬い気もするが、実釣してみないと分からないな
竿先にリリアンを付けたら完成。
オッサンは接着剤の他、PEラインを巻いて強化する
問題はこのヒゲが良い塩梅に合体する竿があるかどうか…
たぶんこの元径だと竿先の3ブランクを外さないとはまらないだろうから、60cmくらいは短くなるハズ。
ということは2m程度の竿だと短すぎて使いものにならんということだ。
かといって3.6mの竿に装着するのもどうだろう?
っという訳で、間をとって3mの竿に合体させてみました。
手持ちの3m竿に合体!拾った竿だから気兼ねがない
予想通り竿先の3ブランクを外すことになった。
既製品のようにスッポリきれいにはまる訳じゃなくて、多少の微調整は必要だったけど、十分使える仕上がりだと思う。
見た目はきれいではないけど、使えればいいや!
ちょっとだけ苦労した合体部
超先調子のハゼ竿完成!
完成じゃ!!
竿の全長は2.4mで少々バランスは悪いがそれは目をつぶろう。
果たしてオッサンのご希望通り、極小のアタリを捉えてくれるのか?
ハゼを掛けた時にどんな挙動をするのか?
楽しみではあるけど、オッサンのこの手のネタものは一回で玉砕パターンが多いから心配でもある。
チタンや新素材、目まぐるしい新技術が登場している現在。
完全に時代に逆行する手間ヒマかけた自然素材による取り組み。
高齢者の逆走運転のようなオッサンのハゼ釣りと思われるかもしれませんが、見方を変えればハゼ釣り界のSDGsと言えなくもない。
オッサンの味わえるコクとはどんなものだろうか?
それは実際にバカをやってみないと分からないものだと思う。
頑張れヒゲ竿!!
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